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「渡辺まお」がAVで演じていた役柄とセックス 無知で愚かだった自分から逃げないために【神野藍】

神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第40回


早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでほしい」 赤裸々に綴る連載エッセイ「私をほどく」第40回。ふと思い出してしまう過去の自分。そのときの私の決断とは何だったのか?


神野藍

 

【自分の作品が見れなくなった理由】

 

 よく控え室に用意されているのは制服だった。必ずと言っていいほど「あまり着崩さないけれど、スカートの丈は気持ち短めにしておく。髪の毛はアレンジせずにストレートに仕上げること」と細かな注文がつけられていた。その制服に身を包み、カメラの前でにこにこと表情を作り上げる。事前に頭にいれておいたシナリオ通りに振る舞い、言葉を吐き出していく。そして最後は制服の一部を残した状態で身体に白濁とした液体をかけられるのが常であった。

 身長は日本人女性の平均身長よりもほんの少し低めだが、元々の骨格が華奢なためかそれ以上に小さく見積もられることが多く、顔の印象もどんなに化粧したところで、がらっと見違えるほどに変化することはない。そのため、実年齢よりも若い女子高生の役をあてられることが多く、ごく稀にそれよりも年齢の低い女の子の役をやることもあった。基本的には「仕事だから」と配役に納得がいかないなんて理由で断ることはしなかったし、なかには内容を聞かされる前にスケジュールを抑える場合もあった。そのため内容を精査することも、そもそもの描かれている内容に何かしらの疑問を持つことすらしていなかった。

 いつの日からか自分の作品が見れなくなった。自分自身を見たくないという理由よりも、そこで繰り広げられている行為自体がおぞましく感じるようになり、己の無知さと愚かさに目を背けたくなったからである。

 女子高生、女子大生、OL、年齢も所属も様々な役柄をあてがわれ、定められたシナリオを何百となぞった。その中でごく一般的な恋愛ーあえて付け加えるならば、「好き」という気持ちだけで関係を結び、自然な流れでセックスする内容のものを見つける方が困難である。

 私がよく演じていた彼女たちは誰かが製作した筋書きの上で非常に都合よく扱われる。そこで繰り広げられる行為は現実では到底あり得ないようなものであったとしても、誰かの性的な願望を満たすためならば〈作品〉や〈フィクション〉といったそれらしい理由を並べて、正当であるかのように振る舞われる。それが現実で行ったとしたら相手の身体を傷つける可能性がある場合や、そもそも犯罪行為である場合においてもだ。ちゃんと対価を貰っていて、かつ相手の言動や行動がお芝居であると理解していても、そんな行為には拭い切れない不快感と底知れない恐怖がついてまわる。撮影の帰り道によく考えていたことがある。「こういうことが現実で起こったら」そして「私の大事な人間が同じ目にあったとしたら」と。そのときは「仕事」という名目で自分自身を正当化するためにそれ以上考えることはしなかった。

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神野藍

じんの あい

文筆家。元AV女優。

1999年生まれ。2020年5月、早稲田大学在学中に渡辺まおとしてAV女優デビュー。2022年5月、現役引退後は、文筆家・タレントとして活動中。好きな本は谷崎潤一郎『痴人の愛』。趣味はトレーニング。

■「現代ビジネス」での社会風俗ぶった斬りコラム(https://gendai.media/list/author/aijinno)が人気沸騰中。

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